渡「えーでは、Iさんの送別会の二次会になりますが、ここで!さらに僕たちからIさんへプレゼントがあります!」
色々考えた。みんなが色々考えたその企画の上に自分が立っている。その流れに乗っていることをIさんも実感し始めたのか、すでに涙目になっている。
明かりを落とす。
スクリーンの後ろ。すでに泥酔のO君がなんとかプロジェクターの電源を入れる。
スピーカーからIさんの好きな奥田民生の「イージューライダー」が流れる。
その音楽に乗ってスクリーンにスライドショーが流れる。
~あらすじ~
渡とO君がKU君(身長が一番高い。力が一番強い)をいじめている。バイト先でいじめてる。ずっと耐えているKU君にも限界があった。我慢の限界を超えたKU君は上半身裸となり、渡とO君を壁に叩き付けたり持ち上げたりして暴れる。このままだと渡もOも店も壊されてしまう。そんな二人のSOSを遠くでキャッチするKA君。ブリーフ姿のヒーローKA君に変身し、バイクで助けに向かう。間一髪のところでKU君を倒す。
とまぁ、
チープなヒーローもののスライドショー。誕生日と全く関係ないスライドショー。だけど、渡以外は皆、役者じゃない。
普段はそんなことをする人じゃない。KA君もKU君も、Oさんに頼まれただけ。必死に頼むOさんの気持ちに応えただけ。
その気持ちだけで、一人は上半身裸。一人はブリーフで街中をバイクで疾走する。
そんな気持ちを感じてかIさんは涙をこらえながら、笑う。離れ業。
映像が終わり。
黒い画面の中テロップが下から上へ流れる。
そこには
「屋上にいってください。分からなかったら渡に聞いて」
という文字が出てくる。
すでに司会と化した渡が、Iさんにダンボール箱を渡す。
渡「まずは一人で屋上にいくのです。それまでは決してこの箱を開けないように。屋上にいって、静かに箱を開けるのです」
よく分からないIさん。だけど、もう流れは止まらない。Iさんも止めようともしない。言われるままエレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。皆に見送られながらエレベーターのドアが閉まる。
閉まった瞬間。
O君。KA君。KU君。渡。そして別店舗の皆が素早く動く。
泥酔のOも最後の力を振り絞る。
三脚とビデオカメラを持って、階段で下に急いで降りる。
ビルの外、店の屋上が見える位置まで走る。
大雨の中、みんなで機材が濡れないように傘で囲む。O君も囲む。
三脚を立て、ビデオカメラの電源を入れ、カメラを屋上に向ける。
整った。
これで舞台が整った。
新宿のロミオ(野獣だけど)とジュリエット作戦だ。
今、屋上でIさんが静にダンボールを開けているはず。
その中には
i-PODとバッテリーライト(暗いところを撮影するときに使われるライト)と紙切れ
が入っている。
紙切れには「まずはi-PODを再生してください」と書かれている。
i-PODを再生すると、皆が一人ひとり、マイクに向かって喋ったIさんへの贈る言葉が流れる。
その最後にO君が、喋っている。
いつも饒舌で軽快なトークをするO君だが、このときの声は別人かと思うくらい小さく、たどたどしい。
「いま、、、一人で、、、えー、、、メッセージをいれてるわけでけど。。。。。。。。。。。。なんにも面白いことは、言えませんけども。。。まぁ、そうだな。。。。これからぁも?、、、舞台とか見に来てほしい、、し、普通に飲みにとか誘うと思うん、、で、よろしくお願いしますってことと、、あとは、酔っ払ったO(自分のこと)が、Iさんに告白するんで、、、、。できるだけ、あたたたかく、、、お願いしますってことです。。で、このメッセージを聞いたら、ダンボールに入ってるバッテリーライトを照らして屋上に立ってください。そして今から言う番号に電話してください。090の~」
と、O君の携帯番号を告げる。
再生が終わる。
雨の中。
ビニール傘の集団がただ一点を見つめている。
雨が傘を激しく打って騒がしい。
Oも渡もずっと顔を見上げて見つめる。Oの手には携帯が握られている。
O「。。まだかな??」
渡「ちょっと遅いよね」
O「あれ?えー、んー大丈夫かな?」
渡「誰かに見つかって怒られたりとか」
O「いやー大丈夫だと思うけど、ちょっとおそいあっ!!!!」
O君の声に皆が反応する。
O君の視線に皆の視線が合う。
屋上に
明かりが
灯っている。
みんなそれぞれ「キター!」とか「うわー!!」とか奇声をあげてる。
OくんがビデオカメラのRECボタンを押す。
カメラは屋上の明かりを捉えている。
O「うわー!こいやー!!こいやー!!」
携帯電話がなる。素早く出る。
0「はい!うん。。え?。。そう。。えと、、、、だから、、あの、、、(沈黙)好きなんだよね。好きなんだわ。だから付き合ってほしい。。うん。。(沈黙)それだけかな。うん。。。たぶん、全部言ったわ。。全部言ったわ。。じゃあ!イエスだったらぁ!そのライトで大きく○を描いてください!ノーだったら!大きく×を描いてください!はい!!!お願いします!!!!
。。。え?何??聞こえない!○か×かだよ。はい!。。あれ?」
Oが隣にいる渡の方に顔を向ける。
O「保留になった!」
携帯から保留音が流れている。
みんな屋上を見上げる。
ライトがゆらゆら動いている。
保留音が消えた。
O「はい!なに?どうした?!!いこ!!!もういっちゃお!!!!こいや!!!イエスかノーか!!!」
ゆらゆらしていたライトが止まった。
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